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執筆者の写真大坂

リンさんの小さな子

難民を積み込んでヨーロッパの港へ向かう船の中に、女の赤ん坊を抱いて、遠ざかる故国を見つめ続ける老人がいる。彼はリンさんといい、赤ん坊は戦争の爆撃で亡くなった息子夫婦の忘れ形見。

何もかも失ったリンさんは、幼子を死なせないためだけに異国へ渡るが、そこには慣れ親しんだ町の様子や香りも、ヒトも無い。言葉が通じないリンさんは孫娘を抱き、独りあてどなく街中をさまよう。そうして疲れて腰掛けたベンチで、やはり孤独なバルクさんと出会う。互いの中にいたわりと慰めを感じあった二人にとって、言葉が通じないことなど何の障壁にもならない。赤ん坊を含めた三人は、相互に欠かすことの出来ない存在となり、そして奇跡のようなエンディングへと続いていく...。

切なくて優しい物語が、ただ淡々と綴られる中に身をゆだねて心癒される一冊です。

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