シモーヌ・ド・ボーヴォワールが1966年から67年に執筆し、大きな話題をよんだ小説です。
恥ずかしながら初ボーヴォワールですが、久しぶりに素敵な文章に出合いました。
「老いること」に伴う身体の衰えや好奇心の減退、自分自身への失望、諦めといった諸々漠然とした喪失感が見事な筆致で描かれ、「ぼくの人生は何の役にも立たずじまいになるだろう」という登場人物のつぶやきは、そのまま私自身の恐れとして胸につきささる。
日増しに老いながら、今をどう生きればいいのか分からなくなる自分自身と向き合うことは難しい。しかし作品中に僅かな光明とも言えるヒントも得た。 モスクワの美しい夜空を見上げ、「見た」ことの感動を昔覚えた詩によって表現し得た登場人物は、昔の言葉が若々しく再生される恒久性に胸を熱くするのである。 詩であれ、音楽や絵画であれ、優れた創作は色あせず永遠にその美しさを保ち続けるという事実に、生きている限り創造的でなければならないと思い知らされる。
婚姻や出産に縛られず、互いの自由意思を尊重しながらサルトルを終生の伴侶とした生き方にも共感を覚えます。また彼女の作品を読んでみよう。
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