南米のとある小国の官邸がテロリストに占拠された話と聞けば、数年前実際に起きた「日本人大使公邸占拠事件」を思い出す人も多いだろう。そこで展開された状況は計り知れないが、少なくともこの小説の中では、奇妙な安らぎを湛える桃源郷を作り出したと言える。
外界から完全に閉ざされた状況の中で、人質となった各国の要人たちと、貧しい寒村で生まれ育ったテロリストたちは、まるで海を漂流していて無人島に辿り着いた人達の様に、いつしか協力し合い共に美しい楽園世界を作り上げていく。
『ストックホルム症候群』の様でもあるし、お伽話と言えなくもないが、綴られる一つ一つのエピソードが実に美しい。
事件そのものは、やはり悲劇なのだが、居合わせた人々にとっては、「きちんと生きること」を知る機会ともなり、人間はどんな状況からでも学ぶことが出来るのだなと改めて感じさせられる。
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